2022/02/10

インタビュー 中井絵夢さん(陶芸家・亀京窯) _ふるさとで「好き」を仕事に_

インタビュー
中井絵夢さん

町の人に「東本梅町で活躍している人は?」と尋ねると、ほぼ必ず「エムちゃん!」という答えが返ってくる。小さな頃から知っている、皆さんご自慢の地元っ子である。
すぐには漢字が思い浮かばない「絵夢」というお名前は、日本画を志し、着物の絵付師をしていたお母様の思いと、変わった名前がいいというお父様の案が偶然一致して決まったのだそう。

生まれ育った東本梅町・半国山のふもとに窯を開き「焼締め(やきしめ)」という古来からの技法で作品を作り続けている中井絵夢(なかい えむ)さんにお話を伺った。

素朴なものが好き

_陶芸に出会ったきっかけを教えてください。

亀岡高校Ⅲ類という芸術を学ぶコースに通っていたのですが、みんな絵がすごく上手で。その中ではさすがにやっていけないなあ……と。絵以外の何かをしたいと思っていたら、3年の選択教科に陶芸があったんです。
そこで土を触った瞬間に「楽しい! これを仕事にしたい!」と感じて、それからはずっと陶芸の道へ。

高校卒業後、京都伝統工芸大学校で作陶の基本的な勉強をして、その後は篠山(ささやま)へ修行に行きました。


_どうして篠山に?

篠山には、岡山の備前焼とか滋賀県の信楽焼とかに並ぶすごく古い陶芸の歴史があるんです。

カラフルだったり絵が描いてあるもの以上に、素朴であったかい感じが好きで、備前焼を知ったときにすごくいいな、自分でもそういう色を出せたらいいなと思って、近くで同じく「焼締め」という焼き方をしている篠山を選びました。

丹波立杭焼(たんばたちくいやき)※1を5年間勉強した後、実家の所有地のヒノキ林を伐採して自分で穴窯(あながま)※2を作りました。窯を作ってから2021年11月で11年目、独立してからは14年目になります。

※1「丹波立杭焼」……日本六大古窯の一つ。蛇窯(じゃがま)と呼ばれる、丘陵に長く築いた登り窯(薪でする窯)を使う。
※2「穴窯」……登り窯の一番古い形。小さい登り窯。  


_これだけの大きなものを自分で作るというのは、相当な覚悟が必要ですね。

せっかくこんな自然の中で、プロとして陶芸をするなら、簡単に真似できないものをしたいと思い、1年くらいかけて窯を作りました。

「陶芸家」というと、ご年配の髭をはやした男性のイメージがやっぱり抜けないみたいで、私には貫禄とかオーラもないし(笑)いまだに「遊びでやってるんやろ?」と言われたり、売り子さんと思われることもあるんです。そういう時に、薪の窯で焼いていることを伝えると「ア、仕事なんや。」とわかってもらえるし、やっぱり窯を作って間違いではなかったなと思います。

釉薬はつかわない

_「焼締め」というのはどういう技法ですか?

簡単に言うと、釉薬を使わず、土そのものの色を木材を使って焼き上げる技法です。木が燃えた灰が溶けて色に変わる、その自然な色がすごく好きで、ずっとそれでしています。

_灰の色ということは、燃やす木によって色が変わる?

変わります。例えば、桜は手に入りにくいからなかなかできないけど、桜色になるんですよ。くすんだピンクみたいな(左写真)

赤松は火力が強い。やにが多いから燃えやすくて、灰が乗りやすいですね。色は緑っぽい感じ(中央写真)これ(右写真)はもみ殻。

木は基本的にいただいたものをつかうので色々ですが、最近は1100℃までは大体ヒノキ(建築端材)でしています。

_灰がのると艶が出るんですね。

そうです。焚火すると火の粉が飛ぶじゃないですか。あの火の粉は、もともと木の灰が火に舞っているものなんですけど、それを窯の中ですると火の粉が器に全部乗るんですよ、降り積もる感じで。それを1200℃まで焼くとガラス質に代わって、固まって艶になる。

_ここにある器は黒っぽいものと白と茶色ですが、この色の違いはどう出るんですか?

これは土自体が違って、鉄分が多い土が黒く焼きあがる。白いほうはどちらかというと石に近いというか鉄分がない土ですね。

土自体も焼きあがる温度が違うんですよ。大体1200℃なんですけど、1300℃あげてもへたらない物から900℃で焼きあがる土まで色々あって、煙突に近い奥のほうが温度が低くなるので、窯の中に置く位置を変えながら焼いています。

光り輝く器

_薪の火での温度調節は難しそうですね。

手前の火を見ながら焼いているので、窯の奥がどうなっているかはわからないですね。温度計が器を並べる位置に差し込んであるので、それを見ながら調節しています。
炎って、赤からオレンジ、オレンジから黄色、黄色から白という風に温度で変わっていって、最終的に透明になるんですよ。
焚火をしたら赤い炎が出るでしょ? そうすると炎に遮られて向こうの景色は見えないんですけど、火が1200℃超えると透明になるので、炎の向こうが見えるんですよね。「今、器の手前に1200℃の炎がある」と言われても、透明な火が見えない状態。その状態で器を見ると、蛍光灯みたいに器が真っ白に光輝いて、ちょっとオレンジになっているんですよ。そうなると焼きあがった印。
でもそれが見えるのはやっぱり手前の方だけで、奥は見えないから、ちょっと不安になりながら焼いているんですけど。

_模様はどのようにできるんですか?

火の流れ方で模様ができるんです。器の置き場所一つで火の流れる位置が変わります。例えば小さい物の前に大きい物を置いてしまうと火の流れを邪魔してしまうとか、そういうのを計算しながら。
逆にそれを利用してあんまり色が(灰が)乗ってほしくないものは、ちょっと奥に入れたりして調整はするんですけど、100パーセントはうまくいかない。
自然相手なので、毎回窯出しが面白いんです。

_窯出しは年間何回くらい?

年に大体3~4回。1回に800前後くらい入ります。
私は結構飽きっぽいというか、自分で満足しちゃうと「もういいかな」と思ってしまう方で、そこまで極めなくてもいいやっていうタイプなんですけど、これに関してはずっと楽しい。
仕事なんですけど、楽しんでますね。

手になじむ深い味わい

_「焼締め」の特長を教えてください。

「焼締め」のいい所は花が長持ちすることと、お酒もまろやかになる。土なので微妙に空気が通るから、水が腐りにくいんです。お花もよく根っこが生えます。
表面がツルっとしていないので、ビールの泡もすごくきめ細かくなって美味しくなるんですよ。クリーミーになるから、飲めなかった人が飲めるようになったとも聞きます。でも逆に炭酸抜けは早いので、炭酸好きな人はガラスの方がいいですね。
使うと色がどんどん深い色に変わっていったり、手になじんでくるので、フィット感も出てきます。

ビアグラス。使い手の好みに合わせて大きいものから小さいものまで色々なサイズで作っている。

_触ってみると手触りとか、音もいいですよね。見ているだけだとわからないことが多いですね。

そうなんですよ。釉薬のものだと一目見て、この色好きとかこの絵柄が好きとかあるじゃないですか。そういう第一印象みたいなのがあまりよくないというか、落ち着きすぎてる。わざわざこの焼き物買わなくてもいいみたいな雰囲気に見られる器なので、長所を知ってもらうためには説明しないといけないんですが、なかなか難しいです。

こういう陶芸の話はできるんですけど、普通のおしゃべりが苦手で。初めて会ったお客さんがただ見ておられたとして、どう話しかけていいのか……聞かれると答えられるんですけど。
そういう意味でも、陶芸と出会って少しはおしゃべりもできるようになって、今も普通に仕事の話はできるようになったので、この仕事をしてよかったなって思います。

実験が好き

_おしゃべりが苦手ということですが、ポポクラブ(亀岡市千代川町)横の日替わり店長カフェで「亀京窯cafe」を定期的に出店されています。きっかけは何だったのでしょう?

実は、接客があるという事には出店を決めた後に気が付いたのですが(笑)
元々ポポクラブの手作りコーナーに作品をおいていただいていた関係で、オーナーの方からお話をいただいたんです。
将来、陶芸の仕事が体力的に辛くなってきたら、自分の作った器で自分の作った料理を食べてもらえるカフェをつくりたいという夢もあって、いい経験になるかなと思いお受けしました。

_絵夢さんの器を使って食べられて凄く贅沢な気分になれたし、とっても美味しかったです! お菓子作りもお好きなんですか?

お菓子作りは好きで、家族に作ったりしていました。焼き加減をみながら色々作るのが好きですね。
料理も調味料を一から調合したりするのが好きで。そういう混ぜたり、実験みたいなことが好きなんですね。

_陶器を作るときも色々実験を?

この(下写真)桜みたいな柄が出ている器の、黒い粒は鉄の粉です。使い終わったホッカイロの中身を出して細かく砕いて、土に混ぜて焼いてみました。

焼くときに赤松が一番いいと言われるのですが、松にはヤニとか油が多い……ということは油っ気の多いものを焼くと艶に代わるのかなと思って、米ぬかとかコーヒー豆をいれてみたり、結構いろんなものを使って。意外と面白いです。

元々ピンク一色に焼きあがる土に、灰が流れて艶になり、桜のような柄が出てきた。

亀岡が好き

_「丹波音羽焼」をつくっているのは絵夢さんだけですか?

そうですね。自分で名づけました。ほんとは、「○○(地名)焼き」みたいなかんじでいうと、京都の焼き物なので、「京焼」に入るんですが「京焼」のイメージと違うなと思って。丹波立杭焼の蛇窯(蛇のように長い窯)で勉強させてもらったので、そのやり方を受け継いでいるのと、すぐそこに流れている音羽川の名前をもらって「丹波音羽焼」にしました。「音羽焼」という名前自体は京都市内にあるので、京都と丹波の地理的にもちょうど真ん中だし良い名前やなと、つけてから思いました(笑)

_作品についている亀は?

もともとは名刺代わりに覚えてもらうために、「亀岡の亀です」ということでつけました。縁起もいいですしね。
お客さんの好みがあるので、今は付いているのもいないのもあります。これ(左写真)はよじ登ってる感じ。こっち(右写真)は中に亀が欲しいと注文があって。これはパーツが細かいので結構大変でした。

_亀岡の土を主に使っているのですか?

昔亀岡でも須恵器(すえき)※3を作っていたという歴史を聞いていたので、なるべく亀岡の土を使っていたんですけど、溶けたり、焼いても固まらなかったり、焼け方にムラがあるなど、安定しないんです。須恵器は1100℃までの温度で焼くので出来ていたと思うのですが、1200℃にはなかなか耐えられない。どこの土でもいいというわけではないようなんです。

それでも亀岡が好きなので、亀岡の土を使いたいという思いはあって。最近は神前(こうざき・亀岡市宮前町)の土を調合して作ってみたりしています。
安定しない、けど面白い。裏だけ焼けてない色だったり(左写真)さらに焼いてみたら少し溶けたり(中央写真)質感がざらざらしていたり(右写真)色も何だかいいですよね。

※3「須恵器」……古墳時代から平安時代にかけて日本で作られた陶質土器

自然と暮らす

_東本梅町の自然環境に囲まれて暮らしている影響はあると思いますか?

自分に多分影響しているなと思うのは、しっかりゆっくり時間をかけて考えたりできること。
都会のパッパッパッと時間内で色んなことをたくさんするのとは違う。時間の流れは一緒でも生活の流れが違う。穏やかというか、怒る機会が少ない。
「一緒にいてイライラしない、穏やかにいられる」と周りの人にも言われたりします。自分の生活に自然が入り込んでいるのかなと。
イベントなどで街中に行くとすごく疲れるので、帰ってくるとホッとします。

_子どものころはどんな生活でしたか?

土はずっと触っていました。粘りの土を団子にして、サラサラの粉を掛けてつるつるにしたりとか。人形遊びとかではなく泥遊びばっかり。もともと好きなんですね、自然に触れるのが。木に登ったり川で遊んだり、虫も全然平気やったし。

_大きくなって、また土に出会ったんですね。

そうなんですよ。私は出会って。
大人になると出来なくなるというか、しなくなる事をいまだにしているっていう。土で遊んで、火で焼いて……そういう人間が元々したいことをしてるって感じです。

お客さんの話をよく聞き、提案や依頼にはできるだけ素直に乗ってみる。
そうして、活躍の場は今や日本全国へと広がっている。
いつも自然体で静かな佇まいを支えているのは、透明な炎と同じ超高温の情熱だ。
嫌なことや苦手なことも乗り越えてしまう、好きなことへの情熱。

ぜひ一度、絵夢さんの作品に触れてみてほしい。感じたことや気になることを、何でもいいから伝えてみてほしい。思わず手を放したくなくなる魅力にきっと出会えるはずだ。

聞き手・文  藤田 理恵
写真     藤田 理恵 / 野中 利恵子

中井 絵夢(なかい えむ) Nakai Emu

NHKの海外向け英語放送「NHK WORLD-JAPAN 」亀岡市特集でも紹介されています(10分30秒~14分45秒)
Kyoto’s Countryside: Compassion for Nature and its Blessings – Core Kyoto – TV | NHK WORLD-JAPAN Live & Programs

「穴窯に魅せられて」(京都府亀岡市・東本梅町の陶芸家、中井絵夢さんのドキュメンタリー) – YouTube(2015年)

【京都 旅行会社 陶芸体験 窯元】〜京都・亀岡「亀京窯」女性陶芸家・中井絵夢さん〜「丹波音羽焼手作り窯」焼締めの想い【オンライン 情報 動画 YouTube 京都観光 個人 オーダーメイド】 – Bing video

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陶芸教室(4名まで)も随時受け付けています。

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